僕は年間でのべ150を超える学校や教育委員会へ行き、授業を実施したりサポートしたり、先生方と話したりしています。そのなかで、子どもたちが一人1台もっている情報端末を使いこなしている様子を見て、「いまの子どもたちはすっかりデジタルネイティブだから」という言葉を聞くことがあります。
この言葉を聞くときはだいたい、「子どもたちはデジタルネイティブだから何でも使いこなせてしまうけれど、私たち大人はそうはいかなくてICTを上手に使えない」というふうに、大人と子どもで分けているような意味合いで使われていることが多いです。実際、そんな気持ちで、なかなかデジタル教科書やICTを活用することに踏み切れない先生方も多いのではないでしょうか。
そもそも、「デジタルネイティブ」という言葉はどういう意味をもつのでしょうか。「デジタルネイティブ」という言葉は、2001年にマーク・プレンスキーが使い始めた言葉だそうです。2007年に刊行された著書『テレビゲーム教育論 ママ!ジャマしないでよ 勉強してるんだから』(東京電機大学出版局)のなかで「デジタルネイティブ」という言葉が紹介されていて、「デジタルテクノロジーは、子どもたちにすれば生まれた時から生活に根付いている。その結果、子どもたちの思考や情報処理の方法は、アナログ世界に育った私たちや、それ以前の世代とは根本的に異なっている」と書かれていました。
2007年に刊行された書籍のなかで、すでにその当時の子どもたちを「デジタルネイティブ」としてこうして書いているので、それから17年が経っている2024年の子どもたちも当然「デジタルネイティブ」です。マーク・プレンスキーが最初にこの言葉を使い始めたときよりも、より多くのテクノロジーが子どもたちを取り囲んでいます。
昨年度、中学校でプログラミングの授業を教えたときに、データをインタラクティブにやりとりしているサービスについてみんなで考えたのですが、生徒たちがたくさんのサービスを使っていて驚きました。「そんなのも使ってるの!?」と驚くこともありましたし、「何それ、知らない。どういうふうに使うの?」と教えてほしいサービスの名前も出てきました。
ところで、マーク・プレンスキーが「デジタルネイティブ」と対にして使っている言葉があります。それは、「デジタル移民(デジタルイミグラント)」です。デジタルネイティブよりも上の世代(我々大人の大多数)は、アナログの世界からデジタルの世界へ移民してきたのです。
マーク・プレンスキーは「デジタル移民」の特徴として、以下のようなことを挙げています。
- メールをプリントアウトして読む
- ネットを第一でなく、第二の情報源として扱う
- 文書データを校正するときは、コンピュータの画面上でせず、プリントアウトする
- オフラインでしか現実生活は起こらないものだと考えている
それと対比する「デジタルネイティブ」の特徴として、以下のようなことを挙げています。
- ネットでさっさと情報を手に入れる
- 一度にいくつものことを同時にできる
- グラフィックが文字よりも先に来る
- 順序にこだわらず、ランダムに情報を集める(非線形)
- 人とつながっていることを好む
- すぐに満足できることや、頻繁に結果が出ることを好む
- 堅苦しい環境よりも「ゲーム的な」環境を好む
こうして「デジタル移民」と「デジタルネイティブ」を比較してみると、いま学校で児童生徒がタブレット端末やスマホを活用している様子に合点がいく部分も多くありませんか。この「デジタル移民」と「デジタルネイティブ」の違いを理解することが、学校での児童生徒たちのICTの活用のときの相互理解の鍵になるのではないかと僕は思います。
例えば、デジタルネイティブの特徴とされている「一度にいくつものことを同時にできる」を読むと、教室で児童生徒がブラウザにタブをたくさん開いておいて、検索サイトで調べ物をしていたかと思えば、すぐパッと切り替えて隣のタブを表示してタイピング練習ゲームをしたりする様子が目に浮かびます。
これを集中力がなくて困ると評価して、「タブは1つしか開けないで」と注意することもできますが、同時にいくつものことをしたがるんだな、と評価すると、「一度にいくつものことを同時にしていてもいいが、やるべきときにきちんと切り替えて集中できるようになってほしい」と注意をすることもできると思います。そう考えれば、デジタルネイティブにとっては「切り替えて1つのことに集中することができる」スキルも大事になるとも言えると思います。

多くの学校は、ここ数年でデジタルを使い始めたところなので、文化としては「デジタル移民」が多い場だと思います。そこに「デジタルネイティブ」である児童生徒が通っているのが学校です。
先生方が「デジタルネイティブ」になる必要はないと思います(なろうと思ってなれるものでもないのかもしれません)。先生方には「デジタル移民」として、「デジタルネイティブ」の特徴を知っていただきながら児童生徒を見とることが重要になるのではないかと思います。
フューチャーインスティテュート株式会社 / 教育ICTリサーチ 為田裕行



