2024年7月4日オンラインにて、中京大学教授 泰山裕 先生にインタビューさせていただきました。

中京大学 教養教育研究院 教授 鳴門教育大学を経て、現職。思考力の育成や探究的な学び、学習環境デザイン等をキーワードに、これからを生きる子どもに必要な資質・能力を育む教育のあり方を検討している。
思考スキルの観点から見たデジタル教科書の良さとは
思考力の育成に密接に関係する「思考スキル」の研究をしている泰山先生。考えるということを具体的に捉えると、状況によってさまざまな意味を持つことがわかります。そんな考えることをサポートする道具「思考ツール」と、デジタル教科書を組み合わせて使うメリットについてお話を伺いました。


―デジタル教科書にはどんな良さがあるでしょうか。
泰山先生
一つは、教科書の中の情報が抜き出しやすくなることです。例えば、思考ツールの活用場面で言えば、デジタル教科書では、載っている写真や教科書の本文を、そのまま抜き出して思考ツールに持ってくることができます。
例えば国語。物語や説明文を読むときは、本文中の記述をもとに考えることがとても重要です。子どもたちが「私はここが大事だと思った」という記述を、教科書との紐付を保持したまま思考ツールで整理できます。
思考ツールを紙で行うとき、まず書き写す必要があるのが1番の課題です。書き写すとどうしても抽象的なキーワードになります。その教科書との繋がりが切られた、メモのキーワードだけで議論すると、浅い議論になってしまうことが多いです。どういう記述からそう解釈したのか、主張に対してどういう根拠があるのかを議論するには、やはり紐付けが必要になります。
もう一つはそれぞれの個に応じた支援の提供です。例えば子どもたちが「比較はどのツールを使うんだっけ」「ベン図はどんな形だったっけ」と分からなくなったときに、ヒントを出すような仕掛けで、リンクを出してベン図の説明を見せたり、前に学習した単元をレコメンドして理解を促したりするなどです。今は先生がやっていることですが、デジタルでの個に応じた仕掛けを使って、子ども自身でできるといいですよね。
思考は1回でできるようになるものではないので、子どもたちのそれぞれの状況に合わせて何回も繰り返す必要があります。カスタマイズ性といいますか、必要な支援を、必要な子にだけ出すのは、デジタルだからこそできることだと思います。
―思考ツールを使うときのポイントは何ですか。
泰山先生
思考ツールは使うことそのものよりも、そのツールが出てきたら「今“比較”しているんだな」と自覚させることや、ツールを選ぶ行為が自分の考え方を選ぶ行為に繋がるように支援することが大事です。ただ使わせてもあまり意味がないので、「これは比較するための道具なんだよ、今比較っていう考え方をしているんだよ」ということを折に触れて伝える必要があります。以前見た授業では、ツール選びをするときに先生が子どもたちに「前、比較ってやったよね」と言って気付きを促していて、上手だなと思いました。
―思考ツールと相性の良い教科はありますか。
泰山先生
使いやすいのは国語や社会、総合的な学習の時間だと思います。国語では「この言葉は何ページの何行目から引っ張ってきた言葉で、その前後には何が書いてあるか」というのは重要な情報です。そのため、教科書の記述をそのまま持ってこられるのはいいと思います。社会は、関連付けたり多面的に見たりすることが重要な教科です。教科書から必要な情報を抜き出して、思考ツールでつなげたり、出来事の順番に並べたり、当時の経済状況とか政治の制度、宗教的な背景といった視点で整理する活動が考えられます。総合では、“考えるための技法”の発揮が期待されており、いろんな情報を整理・分析するために思考ツールを活用することが可能です。
授業づくりでのポイント
―授業づくりではどのようなことを意識すると良いのでしょうか。
泰山先生
授業を見させていただいた後、先生に「今日子どもたちにやってほしかった“考える”はどれですか」と聞くことがあります。すぐに答える先生と、答えるのが難しい先生がいます。また授業を見ている先生が選ぶものと授業をした先生が考えていたものが違うこともあります。「子どもたちにどの“考える”をやってほしいかを明確にしましょう」ということはよく先生たちにお伝えしています。
また最近、「その学び方で先生も同じように学びますか」と質問することがあります。例えば先生が同じ場面でも、先生は1人で考えてから、グループで考えて、全体で共有したくなりますか、と。活動が不自然だと子どもたちは、「よくわからないけれど先生が言うからやる」となってしまい、どんどん先生がいないと学べない子になってしまいます。先生が学ぶように子どもたちも学ばせることを意識すると良いと思っています。
―マインドセットはどう変わっていくでしょうか。
泰山先生
実際に子どもの様子を見ること以上にインパクトが大きいことはないと思います。目指す姿が見えないとか、子どもに任せたら教えるべきことが教えられないんじゃないか、といった不安の声を聞くこともありますが、子どもが豊かに楽しそうに学んでいる姿は先生の目には明るく映ると思います。
私はよくお邪魔した学校で、GoogleのチャットやMicrosoftのTeamsを作ってもらって、その学校の先生全員に入ってもらい、1日1回、何かやってみたら写真を撮って送ってもらっています。そのお互いに共有する仕組みが上手く動き出した学校は授業が変わっていくスピードが速いです。
よく投稿する先生や見ているだけの先生もいますが、1日1回何か投稿があって子どもの姿も見られるので実践のイメージを持ちやすく、ちょっとずつやってみようかなという気持ちになっていただくと思います。先進事例はたくさん出ていますが、やっぱり自分の学校の子どもの姿を見るのとは違うと思います。
なかでも、授業はとても上手だけれどICTに苦手意識のあるというような“ベテラン”先生が変わり始めると、一気に他の先生も変わっていくことがあります。そうすると全体の雰囲気も良くなりますね。
子どもがどんな反応するかや、「授業が変わっても大丈夫」といったことを先生同士で共有していくことが大事なので、日常的に情報を共有できる場所があるのはとても重要だと思います。
―デジタル教科書の今を、どのように見ていらっしゃいますか。
泰山先生
社会問題などを解決するために国語や理科、算数数学などそれぞれの教科があって、それぞれの学習が子どもの中で結びつくといいなと思っていて、デジタル教科書がそれを繋ぐハブの役割を果たせるといいなと思っています。
今は制度上で作られた枠組みや教科の壁が高すぎるように感じています。そのため、例えば教科書を閉じた瞬間に国語の世界が終わって、次の時間で理科の教科書を開いたら、それは国語とは別の世界になっている感じがするんですよね。
大人になったら問題は教科ごとに分かれていないので、子どものころから、教科を横断した社会問題のようなものに対して、どの知識をどう使ってアプローチしようかということを考えられるととても良いと思っています。
EduHubWEBコラム担当者



